本日は、平成26年(2014年)7月27日(日)

【東京・四ツ谷の経営コンサルタント 中小企業診断士の立石です】

土日・祝日のテーマは「バラエティ」です。先週に引き続き、私が新卒で入社した株式会社キーエンスの話題です。当時のキーエンスは中小企業から大企業へ飛躍する頃でありました。現代の中小企業経営者に参考になることも多いと思います。私の頭の中の記憶を綴りますが、もう四半世紀以上過ぎたので、ボンヤリした内容かもしれません。最近は何事につけ日記を書いておけばよかったと後悔する日々です(笑)

キーエンスが効率的な経営を実践していることは、ご存じだと思います。驚異ともいえる営業利益率が、それを物語っています。創業者の構築した仕組みが基礎になっているのは間違いなく、私を含めて、入社した方のほとんどが創業者の考え方に憧れて入社、入社後も、そのロジックに賛同されていたと思います。

その中で、業務が単純なものは外注化して、付加価値の高い業務に専念しなさいという訓示がありました。
例えばダイレクトメールの実施に際して。発送先や何を同封するかを考える業務は、社員自身が行うべきであるが、ダイレクトメールそのものを作成する封入作業や発送業務は、明らかに時間当たりの作業工賃を安く提示される、外部業者さんが存在するのであるから、自身が行ってはいけないとういう考え方です。いわゆる業務のアウトソーシングという思考です。現在の企業では主流でありますが、キーエンスでは、既に25年以上前に徹底されていたのです。まさに効率的経営の先駆者ともいえるでしょう。

一方、キーエンス退職後に私が転職した当時のアンリツでは、ダイレクトメールという製品のPR手法は、まだ黎明期であったと思います。配属された部署で、営業力のある某先輩が、かねてよりキーエンスのダイレクトメール戦術での拡販に切歯扼腕(せっしやくわん)されていて、キーエンス対抗品である新製品が高精度・低価格であることから、「必ず勝てる」という信念の下、本格的にダイレクトメール作戦を企画・実施されました。当時は、キーエンスのように「(工賃の安い)外部を活用する」という先行的な考え方は、主流でなかったと思いますが、世間一般の会社同様、いたしかた無いことだったと思います(営業部門で訓示され始めたのは、私がアンリツ在職期間の後半の頃だったと思います)。

結局、先輩が製品紹介のリーフレットを企画・デザインされました、ダイレクトメールの封入作業については、部署全員で実施した記憶もあります。まさに全員が「日々、やっつけ業務」のありさまです。各営業担当者がお客さま訪問を終えて帰社後に作業実施の為、残業時間もハンパでなかったと記憶しています。ただ、苦労したかいもあり、その効果は絶大でした。キーエンスに対抗する新製品の販売台数が、全国的に爆発的に伸長した記憶があります。ところが、この販売施策については無理がありました。キーエンスのようにダイレクトメールという販促活動を行う組織もなく、分業もあいまいであったために、止む無く営業部門が自主的に実施していただけの話です。その為、営業担当者から当然ともいうべき不満が生じます。つまり「営業担当者がクタクタになる」ということです。しかしながら、こういう不満にも、当時の営業部門の上司がきちんと個別に対応します。全員がそうだったとは言い難いですが、「部下に対する説明能力」が秀でた管理職に恵まれて、各営業担当者の不満は解消されていくことに、私はアンリツの底力を体感した覚えがあります。その後、私自身も、リーフレットの作成を任されるようになりました。当時少々不満を抱えながらも遂行したこの業務は、独立した後の経営コンサルタントの活動で、とても役に立つスキルを身につけさせて頂いたのだと、今もって感謝しております。というのも、経営支援先であるBtoB(企業間取引)企業のカタログやリーフレットを一見するだけで、改善点が浮かんでくるからです。

さて、日々負担に感じながらもダイレクトメール作業を実施していた当時、キーエンス勤務時代について考えたことがあります。キーエンスの創業者の合理的な思考には、正直言って転職後も心酔していたのは事実ですが、管理職の個々の担当者に対する「説明能力」については、アンリツと全く反対であることに気づきました。キーエンスにも、秀でた説明能力のある管理職(お世話になった直属の上司)がいた一方、前回綴った、毎週月曜日に始業時間を30分繰り上げて、朝8時からの早朝ミーティング開催の指示を行うマネージャーの方針に閉口するのは、当然だと改めて認識したのでした。前回綴りました通り、反対する意見には「後ろ向きである」の一言で一蹴。管理する側からは楽な対応でしょうが、まさに「問答無用」で議論の余地が全くないところに、合理性は全く見出せません。

実際、早朝ミーティングに反対する側の意見にも一理がありました、ミーティングの中身たるや、個人別の売上進捗の確認するのみで、とても生産的とは考えにくかったからです。席上、予算達成を実現する具体的なアドバイスなどは皆無で、各営業担当者への叱責まがいの発言が飛ぶだけです。当時のキーエンスは、毎日夕礼を実施しているので、先週末の夕礼時点で各個人、各グループの売上進捗などは把握済みであり、全員の頭の中に叩き込まれています。進捗の悪い本人自身が、誰よりもその事実を把握しています。もちろん早朝ミーティングの後は、毎日実施される全体朝礼、グループ別の朝礼に至り、都度売上進捗の確認は行われます。現在のキーエンスの営業所がどうなっているかは知る由もありませんが、以上は私が勤務していた営業所の実態です。

ここからは、私見であります。売上予算進捗の確認は必要であるとも思いますが、週明けの朝一番から「これでもか」とばかりに、個人の売上予算進捗云々を討議するのが、本当に必要であったのか疑問がありました。私の直接的な退職理由にはなりませんが、合理的経営を追求するはずのキーエンスの営業所に、もっとも非合理的である「精神論」が支配され始めたのです。厳しい環境下でも、常に一体感があった営業所の中に、かつては感じることが無かった不満がくすぶり始めます。当時、従業員の立場である私自身も、正直なところ「薄気味悪さ」を感じました。早朝ミーティングが開始された頃、私自身は成績が上向きであったからこそ、なおさら無駄な時間を使っているだけだと感じたかもしれません。トップダウンによる効率的な経営の仕組みが構築されても、非効率的な死角が生じてしまう危険性がある・・・これは、成長する中小企業経営者にとっても是非、参考にして頂きたいところでもあります。みなさんはどうお考えでしょうか?特に中小企業経営者の方は、いかがお考えでしょうか?

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