本日は、平成26年(2014年)10月11日土曜日

【東京・四ツ谷の経営コンサルタント 中小企業診断士の立石です】

土日・祝日のテーマは「バラエティ」です。先週に引き続き、私が新卒で入社した株式会社キーエンスの話題です。当時のキーエンスは中小企業から大企業へ飛躍する頃でありました。現代の中小企業経営者に参考になることも多いと思います。私の頭の中の記憶を綴りますが、もう四半世紀以上過ぎたので、ボンヤリした内容かもしれません。キーエンスを退職して、当時のライバル会社に転職した後も含めて、最近は何事につけ日記を書いておけばよかったと後悔する日々です(笑)

キーエンスに勤務していた当時、その販売スタイルは原則として「直販」でした。機器を実際に利用される工場や研究所のお客さま(最終ユーザー)に直接アプローチ・PRを行い、契約・納入を行うスタイルです。相手方の企業規模は問いません。大手企業はもちろん、小規模事業者でも取引を行います。最小受注数量も1個から対応。営業担当者は、必ずマンツーマンの商談フォローを行います。マンツーマンといっても、受注後の納品を行うことはありません。宅配便を使い即納。以上は創業者が構築したルールでもありました。

キーエンスはその黎明期、他社にないオリジナルセンサを市場投入しましたが、センサ市場への参入は後発です。先行する大手メーカーは既に、全国津々浦々に代理店網を構築済みだったはずです。個人的な所感ですが、後発のキーエンスがセンサ業界の販売店に入り込む余地はなく、自社で売り切る必要があったはずです。そういう意味でキーエンスの直販体制の原点は、苦肉の策であるとも考えています。

直販体制では、中間業者のマージンを考慮する必要がないので、一見、販売製品の利益率(粗利益率)は高いものとなります。ところが、直販体制を選択すると、営業担当者の増員と販売活動による費用も多くかかります。直販を志向する会社がすべて、高い最終利益(当期利益)を得るとはいかないはずです。むしろ営業担当者の数を増やしながら、中間業者経由の商売では高い利益の獲得は見込めません。1987年(昭和62年)当時のキーエンス。大手のセンサメーカー、計測機器メーカーと真っ向勝負を志向し始めた時期だと思います。全従業員が300名程度。私は、その年に入社したのですが、新卒入社で営業配属が24名という大量配置を考えれば、創業者の直販体制維持に対する並々ならぬ決意が見てとれます。

一方、転職したライバル会社のアンリツでは、事業部によってさまざまな販売形態がありました。私の担当していた精密計測機器の場合、大手企業との取引を中心に、先人の遺産ともいうべき「直販」が定着していました。強みの開発技術を前面に、引き合い当初から受注金額が大きいテーマの下、最終ユーザーとマンツーマン的な対応で製品化するという手順もあったようで、中間業者が介在する余地も少なかったと思います。ただし、すべて直販で行うという厳格なルールも無く、標準仕様の機器については、代理店販売の方式も採用していて、効率的な営業も行っていたと思います。

アンリツに勤務していた頃、転勤を経験したことがありました。その新しい担当地区でのことです。あくまで予想でありますが、自身の販売担当地区では、キーエンスの営業担当者の方が、数で勝るのは間違いないと判断しました。そういう状況下で、直属の営業部長がかつて、別の製品群販売において「代理店との協調による手法」で実績を上げたプロであり、直販志向のキーエンス勤務時代では経験したことがない、スキルを学ばせて頂きました。まずは視野を広げることが必要であったのです。「ライバル会社に勝ち抜く営業力があっても、限界があることを知りなさい。卸売業などの中間業者さんを仲間にして売上を上げることも考えなさい。ライバルのキーエンスが直販志向なら、その真逆の施策を採用することこそが効果があると、まずは考えてみなさい」。さながら、自由自在(実は勝手気まま)の悟空が、初めてお釈迦さまに遭遇したかのようです。

もちろん、販売をお任せする中間業者さん、とりわけ担当者が「人」である以上、そのスキルには自社と同じく「バラツキ」があります。会社の財務状態、規模という観点だけでなく、積極的に販売して頂ける会社、優秀な担当者と共に販売していく手法も伝授されました。そして忘れてはならない販売支援の策。自社製品の販売を他社(者)に頼る場合、受注が芳しくないと「やれ頼りない、動かない、営業力がない」と不満が出るのも一般的ですが、そういう不満を出すメーカーの側こそが、実は販売会社に対する支援について無頓着、あるいは無策であり、まず自身が猛省すべきだという原則・心がけも伝授されました。その仲間づくりともいえる施策のおかげで、大幅な売上伸長という貴重な経験をさせて頂けたのです。偶然とはいえ、またもや私はすばらしい上司に恵まれたのです。キーエンス勤務時代にせよ、ライバルのアンリツに転職しても、宝くじに当選するような運がいいという他はありません(この上司が、私の執筆書籍後半の「部下を信じる」方で、「性善説」による管理手法で部門の成果を出す方でもあります・・・実録として登場して頂いています)。

こういう背景からも、当時の私は、対キーエンスを含む販売競争について「完全なる勝利」を確信したのでありました。ところが、(毎度記述していますが)そうは簡単にはいかないのであります。

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