本日は、平成30年(2018年)3月25日日曜日
【東京・四ツ谷の経営コンサルタント
元キーエンス(→アンリツ)社員、中小企業診断士の立石です】

本日は、黎明期のキーエンス(リード電機時代)において、
急成長を実現させた(おそらく業界初であろう)販売戦術、
「テスト機無料貸出のシステム」について
独自の視点(私見)で、綴りたいと思います。

私とほぼ同世代で、キーエンスに勤務していた方は、
「テスト機」という名称より、
社内で使われていた『サンプル』という用語で
ピンと来る方が、多いかもしれませんね。

私が新卒入社した1987年。
「テスト機無料貸出のシステム」は、
売上高伸長の為の仕組みとして、既に確立されていました。
営業活動におけるルールでもあった為、その起源について、
勤務していた当時は、深く考えることも無かったと思います。

ところが、現在よくよく考えると「テスト機の無料貸出」を
システム(全社的なルール)にするという発想は、
フツーは思いつかないですね。

現在、共にキーエンスを退職した
同期の彼と談話する機会があります。
彼の概略は、>>>コチラをクリックしてください。
以下は、ふたりの雑談で飛び出した私見であります。

「テスト機無料貸出」の戦術。
経営上、相当追い詰められた状態での発想では?

センサの分野では、キーエンスは後発参入。
既に、大手センサメーカーが
全国津々浦々に代理店網を構築済です。
よって、キーエンスには、
「直販」しか選択できなかったと考えるのが妥当です。

そして、私が入社するひと世代前の1980年。
センサ関連のオリジナル商品で、
ヒット商品が生まれます。

当時、営業担当者が訪問対応できる
キャパを超えた引合が殺到したと聞いたことがあります。
引合内容の多数は、
【購入を検討している、訪問説明希望・・・】。

この状況下で、フツーの経営者なら、
「まず増員」で対応しようと考えるはずです。
ところが、もし世間一般の企業のように
「まず増員」を実施していたら、
キーエンスの急成長は実現せず、
ごくフツーの会社で留まったのでは?・・・同期と共通する考えです。
また、当時のキーエンスには、即「増員」では対処できない
内部要因もあったのでは?と考えられるのであります。

ファブレスがピンチの要因かも?

現在のキーエンスは、ファブレスのメリットを享受している企業です。
ただ、黎明期は「直販」と同じく
ファブレスの選択しかなかったと見るのが妥当です。
というのも、事実として、
創業者は過去2回、廃業を経験されています。
一般的に融資は見込めず、
工場を建設できなかったと考えられるからです。
つまりは、外部に生産を委託せざるを得ない状況だったと、
想起できます。

外部に生産を委託する場合、コスト低減等を目指して、
相当の数量を発注する必要があります。
結果、会社には在庫が積まれることになります。
売れなければ、もちろん不良在庫となってしまう・・・
このピンチに近い状況で、創業者が打ち出した策が、
営業担当者の増員ではなく、
「テスト機無料貸出のシステム」だったと考える次第であります。

訪問せずに、貸し出しなさい

事実として、当時の営業担当者に指示がなされたそうです。
訪問説明希望の引合に対して、
『訪問せず、機器を貸し出しなさい(送りなさい)』
『貸し出しは無料』
『新品を貸し出して、上手いくようなら、
そのままお買い上げ頂くように』。

以上、いいアイデアですが、ここで疑問がでませんか?
そう、性能の限界等があって上手くいかない場合は?

もちろん、きちんと考えられています。
『そのまま返却で構わない、同じく費用はゼロ』。
つまり、返品リスクを覚悟しての決断なのです。

この決断が、たくさんのお客さまから強く指示されます。
いろいろな技術的な質問を持たれていても、
「えっ?無料で貸して頂けるの?、
(打ち合わせより、実験した方が早い)」。
対する売り手側のキーエンスは、訪問説明が省略できます。

また、センサの類は工場の設備に取り付けて使用されます。
実験が上手くいったので購入に進む場合・・・
デモ専用の機器なら、設備から取り外して返却する必要があります。
ところが、貸出機が新品なので「取付作業は1回だけ。そのまま使える」。
対する売り手側のキーエンスは、設置・納入説明の訪問が
省略できます。

結果、営業担当者は、訪問外出を減らして
引合対応の件数が増やせます。
「テスト機無料貸出」は、まさに増員と同じ効果があったわけです。
しかも、即売上に直結するから秀逸であるのです。

しかしながら、私が入社した頃は、
いよいよ、後発参入品を携えて、
先行する複数のライバル会社との競争時代に突入。
前述の、オリジナル商品のような引合殺到時代は既に終息し、
「購入前提の貸出依頼」の件数は、 大幅に減少します。

それでも、貸し出し件数(サンプル件数と呼んでいました)を
増やすことが、営業担当者の重要な使命でありました。
購入に至らず、貸出機の返却件数が多くても構わない・・・。
(貸出件数が多いほど、評価が高い)。

模倣できても、徹底できないライバル会社

ライバル会社のほとんどが、キーエンスの成長を見て、
貸出戦術を追随・採用していったと思います。
ただし、キーエンスでは、残業代が全額支払われる高い報酬であっても
総額の人件費はスリム(当時は現在のような、
入社まもなく1000万のプレーヤーの制度は無く、
世間よりやや高いという程度でした)。

一方、人が増えた状態(人件費総額・比率の多い体質、
いわゆる「兵站が伸びきった状態」)の企業では、
貸出戦術には限界があります。
そういう会社では、在庫増加(キャッシュの減少)・費用増加の観点で、
準備台数が制限されるのが通例だからです。
そんな会計的な正論が通るのも、仕方ないことですが、
結局、全社的な戦術・ルールとならず、
キーエンスとの真っ向勝負にならないのです。

キーエンスであれ、ライバル会社であれ、
当時の働き方の主流は「正社員」。
いったん採用すれば、簡単にレイオフなどできません。
増員の前に、やるべきことは無いか?
考え抜いたキーエンスの創業者の思考には、感嘆せざるを得ません。

貸出機が少なくても勝てる戦術

さて、キーエンスを卒業して、
ライバル会社のアンリツに転職した私。
当初の予想通り、貸出機の台数に制限がありました。
それでも「無いモノねだり」などせず、
別の手法でキーエンスに勝つ戦術を、見つけだしました
(キーエンスの創業者には及びませんが、
私も少しは考えて行動する社員です:笑)。
ちょうど「頭脳明晰の営業部長と、番頭挌の先輩とともにした時期
(おそらく黄金期です)の頃です」
その黄金期は、>>>コチラをクリックしてください。

キーエンスの「テスト機の無料貸出」に、
勝つ手法の詳細ですか?
アンリツだからこそ、実践できたことです。
それは、また別の機会に。