本日は、平成26年(2014年)5月17日土曜日

【東京・四ツ谷の経営コンサルタント 中小企業診断士の立石です】

土日・祝日のテーマは「バラエティ」です。先週に引き続き、私が新卒で入社した株式会社キーエンスの話題です。当時のキーエンスは中小企業から大企業へ飛躍する頃でありました。現代の中小企業経営者に参考になることも多いと思います。私の頭の中の記憶を綴りますが、もう四半世紀以上過ぎたので、ボンヤリした内容かもしれません。最近は何事につけ日記を書いておけばよかったと後悔する日々です(笑)

本日は、キーエンスに新卒入社した営業担当者が、一人前になるまでに要す期間について、個人的所感を述べます。
入社した1987年(昭和62年)4月の最終日が、本社集合研修最後の日。各営業所に赴任する営業担当者全員を前に、創業者が「文句をいいながらも、必ず1年間は続けてみるように」といった趣旨の訓示があったと記憶しています。今年キーエンスに新卒入社されて、営業部門に配属された方々に対して、私も当時の訓示と同じエールを送りたいと思います。
個人的所感としては、創業者の訓示の通り、新卒入社して1年目が修練の場であり、試練の時であったと思います。新卒の営業担当者は、5月のGW明けに各営業所に配属されてから実戦的な研修を受けます。いわゆる「ひとりだち」するのは8月頃。もちろん8月デビューの時点で先輩方のような完璧なセールスなど、真似すらできるはずがありません。基礎レベル(担当する機器のPRができる、ライバル会社の製品知識、そして最低限の打ち合わせができるスキルがある程度かと)からスタートです。その後、電話や訪問でたくさんのお客さまと接しながら、先輩方の指導とサポートで成長していくのです。原則として飛び込み訪問はありません。事前の報告時点で「飛び込み訪問します」などは、絶対に許可がおりません。実際に、私が在職中に飛び込み訪問をしたのは、前回綴ったお客さま1件のみです。私の回想では、正直いって入社1年目が、もっともキツかったと思います。
◆「時間の長さ」。徹夜などはありませんが、定時後の会議、勉強会で21時頃までの勤務など。こればかりは学生から社会人になり生活時間がガラリと変わるので、いたしかたないことです。ところが不思議なことに、8月には慣れてしまい、1年目の試練の中では全員が一番早く克服できることだと思います。
◆お客さまとの実際のやりとり、商談のすすめ方などの「セールス技能の習得」。商談では、お客さまという「ヒト」を相手にしているので、たくさんのシーン・ケースがあります。当時の新人営業担当者のレベルアップは、指導する側の先輩のスキルにも依存していたと思います。私自身、うっかりミスで叱責を受けることもありましたが、このスキルの伝承という面では、最も恵まれていたと思います。戸惑いながらも、3月までには、ほぼ体得できたと思います。
◆お客さまの業界の知識。これが、新卒1年目と2年目以上の先輩とでは、圧倒的に差があります。1年目は、学ぶべきことが多く、ほとんどが受動的に、ただ吸収あるのみです。ところが、2年目以降は吸収すべき量は減ってきます。ただし、この2年目以降は、各人のこころがけ次第で、入社年度とは関係なく差がついていくと思います。工場や研究所の技術のスペシャリストであるお客さまの大部分は、期待はしていても、営業担当者に対等の知識レベルを求めていないはずです。それは無理というものです。しかしながら、お客さまは自身の業界のことについて関心を持ってもらいたいのです。ほんの小さな業界用語を知っているだけで、「よくご存じですね」「あっ、わかっているじゃないですか」と注目されます。このスタイルはキーエンスに限らず、技術営業という分野では、ライバル会社と差別化する基本だと思います。
私の販売グルーブの先輩で、お客さまの業界を徹底的に研究する方がいました。もちろん私と同じ文系出身の方です。休日に専門書を読んで、かみくだいてグループの勉強会を進行されます。手書きで、お客さまが製造される製品の分解図と、押さえておくべき用語の解説をコンパクトに記載した資料を頂いた時は、正直いって舌を巻きました。
技術営業で好成績を維持しようとすれば、お客さまの業界の知識の習得は、継続しなければならないことだと思います。そして、キーエンスの営業担当者が、これらを能動的に研究できるのは、やや余裕ができる「入社1年経過」というキャリアが必要だと思います。お気づきの通り、この重要な知識習得には、学生時代の偏差値が高いとか低いとか一切関係ありません。実際、キーエンスでは入社した後の評価に「出身校という経歴」というものは全く考慮されませんでした。おそらく求められるのは、頭の良さより、何事にも「興味をもつこと」「関心を持つこと」という、こころがけだと思います。
転職した後、お客さまになった日本を代表するハイテク会社のエンジニアの方と打ち合わせしていて、本音を伺う機会がありました。最も困る営業担当者が、打ち合わせの際に、業界の専門用語を話している間、ひたすら「ボーっ」と眠そうな態度をとる方だそうです。わからなくてもいいので、せめて「どういったものですか?」「何故?」という関心を持つ営業担当者が窓口になって欲しいと伺ったことがあります。
よく「石の上にも三年」といわれます。正直いって、私自身は入社2年目早々に、「機会があれば退職して転職する」と決めていました。焦点は「いつ辞めるか」という時期でした。基本的なセンサの販売で、同じ営業所に配属された成績優秀な新卒入社同期も、ほぼ同じ考えだったと思います。彼がよく口にしていたのが、「石の上にも3年」。キーエンスでは、新卒入社1年経過で、他社の3年分くらいのスキルが身についていると思いますが、世間一般の評価は一律のはず。つまり、3年くらいのキャリアが必要であろう・・・なるほどと納得させられました。しかも、当時のキーエンスは2部上場したとはいえ、現在より無名の部類で、転職先も、そうたくさんは無いだろうと考えていました。
ところが、今でいう人材紹介の会社では「成長しているキーエンスの営業担当者の評価は高い」ということを、どなたからか聞いたことがありました。少しは安堵したのですが、その後決定的な情報が入りました。私自身は面識がなかったのですが、新卒で1年上の先輩の同期であった営業担当者の方が、キーエンス入社2年を経て退職し、大手ライバル会社に入社。担当地区を変えているものの、キーエンスと真っ向勝負されているとのことでした。「まさか、あの大手企業が中途採用する・・・?」、正直ショックを受けるとともに、明かりが見えてきました。
当時の私は、ライバル会社に転職することは全く考えていなかったですし、まずライバル会社が採用するはずがないと思っていました。それよりも、経験2年でも「キーエンスの営業出身」を高く評価してくれる会社があると驚いたのです。そこで決意しました。今年2年目が終了した時点で、年間事業部セールスランキング表彰(3位以内)、それが無理ならもう一年、つまり3年間の勤務を遂げてからキーエンスを退職しようと、密かな方針を決定したのでした。

『元キーエンス社員の回想、通算100回』にして、学生さんむけ、社会人むけ、そして経営トップ・事業責任者むけの記事をまとめてみましたコチラをクリックしてください)。