本日は、平成27年(2015年)8月16日日曜日
【東京・四ツ谷の経営コンサルタント 中小企業診断士の立石です】

土日・祝日のテーマは「バラエティ」で、私が新卒で入社した株式会社キーエンス関連の話題です。当時のキーエンスは中小企業から大企業へ飛躍する頃でありました。現代の中小企業経営者に参考になることも多いと思います。私の頭の中の記憶を綴りますが、もう四半世紀以上過ぎたので、ボンヤリした内容かもしれません。キーエンスを退職して、当時のライバル会社に転職した後も含めて、最近は何事につけ日記を書いておけばよかったと後悔する日々です(笑)

前回ブログの続きになります。
BtoB(企業ー企業間取引)の製造業(卸売業)が、キーエンスのように高い利益を確保できるか否かは、「会計の視点のみ」による損得勘定ではなく、経営トップや事業責任者に、【真の】経営者の視点が備わっているか、否かで決まるものだと判断できます。
日頃、売上伸長(利益確保)について一生懸命になっておられる経営トップ、事業責任者の方にとっては、少しショックを受ける厳しい記事だったかもしれません。しかしながら、自虐的に「無知を悟るといった」思考に陥る必要はありません。というのも、外部の経営コンサルタントの方に相談しても、まず提案されることがない内容だからです。今回も同様の見地で、経営上必要な【真の】の部分について語ります。

キーエンスの販売戦術は、売上を大きく伸長させる(あるいは高い利益を確保する)画期的な手法でもあります。同業他社が実施することができない、あるいは追随までに相当の時間を要した戦術でもあります。特に「即納」「無料テスト機貸出」・「修理代替機貸出」については、自社で相当の在庫を持つことに他ならず、「会計の視点のみ」による経営判断では、商品が増える(バランスシート上のキャッシュが減る)ことから、通常は採用されない戦術でもあります。
ここで重要となる「会計とは異なる視点」とは、顧客満足度といった、感覚的なものや将来期待できる利益といったものだけではなく、現時点で具体的な数値(利益)を算出できるものです。客観的な数値(損失を減らす、利益を獲得する)という経済原則で物事を判断するキーエンスの方針には、間違いなく合致しているのであります。
同業他社が、高い利益を獲得するキーエンスの販売戦術を採用できないのは、以上のような「会計の視点のみ」が最優先されているからだと、考えてよさそうです。

「真の経営者」としてのリスクのとらえ方
実は、世間一般の会社でキーエンスの販売戦術が採用されない理由が、もうひとつあります。それはリスクについて、どうとらえるかです。
今回は「即納」を例にいたします。お客さまから注文を頂いてから、即時に商品を発送して納入する・・・キーエンスのお家芸である即納体制です。即納とは、自社で豊富な商品在庫をもつことを意味します。リスクとして、順調に売れているうちは良いのですが、売れ残ることも想定されます。大量の不良在庫が、経営上よろしくないのは当然でもあります。

キーエンス勤務時代に、既に確立していた「即納体制」はライバル会社に勝ち抜く販売戦術でもありました。特に、製品群の中で単価の安い「基本的なセンサ」については、使用されている工場で消耗品のイメージもあり、お客さまのほとんどが即時入手を希望されます。もし即入手できない(在庫が無い)となれば、同等品が複数のライバル会社から販売されており、他社に発注されてしまうといった機会損失が生じます。それゆえ、「基本的なセンサ」の販売では、即納体制の維持は企業間競争に生き残るのための必須条件でもあったのです。

ところが、その「即納」について、キーエンスに勤務していた私は、ずっと疑問に思っていたことがありました。私が直販担当していた高額な計測機器群についても「例外の無いルール」として即納であった理由が、全く理解できなかったのです。もちろん、売上を計上するには商品の出荷が必須です。毎月の目標予算を達成するための必要な仕組みであったと思います。しかしながら、即時売上計上できるという理由だけで、経営者が、相当の在庫を持つリスクを取れるものなのでしょうか?勤務していた当時、精密計測機器の分野では、ライバル会社全てが即納体制を構築していませんでした。しかも、計測機器の販売競争において、「即納」が競争に勝つ有効な戦術でもありませんでした。お客さまが発注される要件は、納期よりも価格と性能(むしろ性能)が優先。当時は、同一の機器群で最強の製品を開発・販売していたアンリツとの競争で、徹底的に思い知らされたことでもあります。「納期がかかっても、より性能のいいものを入手したい」、これが大多数のお客さまの本音であったはずです。

そんなことは私同様、キーエンスの創業者は百も承知のことだったはずです。それでも、創業者が例外の無い「全商品即納」としたのは、不良在庫のリスクより、更なる大きな損失の存在に気付いていたからだと思います。そして、その損失を最小にするために即納体制を「例外の無い全社共通のルール」にされたとも考えてよいでしょう。

私が、その本質(不良在庫のリスクより大きな損失発生のリスク)を理解できたのは、製品力で最強であった、ライバル会社のアンリツに転職してからのことです。対キーエンスとの受注競争の場面で、いくらアンリツの製品が性能上優位であっても、受注生産の体制(正式注文を請けてから製作を開始)では、納入まで相当な月日を要するため、競争に勝ち抜けません。アンリツでは、計画的な見込生産(一定数量の注文を想定して予め製作しておく)を行って、受注生産より短納期化を志向していました。この体制は、即納体制のキーエンスにも十分対抗できる、妥当な方策だったと思います

ところが、アンリツに勤務してからほどなく、キーエンスの創業者が既に気づいたであろう、不良在庫を上回る【真のリスク】というものに遭遇しました。その事態を何度も経験することで、つくづくと、キーエンスの創業者の考え抜かれた施策、「例外の無い全商品即納」の真意が理解できました。まさに、損失を解消して高い利益を確保するという視点に圧倒されたのであります。その損失は、納期を巡る競争(受注前の短納期提示)に敗れて失注するという機会損失ではありません。残念ながら、お客さまより正式にご注文を頂いた後に発生する損失なのであります。もちろん、前回ブログの無料代替機の制度と同様、具体的な数値(●●万円の損失)として可視化できます。しかもその損失は、正直申し上げて、お客さまの即納要求に対応できず、商談案件を失注するという機会損失よりも、はるかに大きな金額となる場合もあったのです。キーエンスでの経営判断の基準は、経済原則で行うというスタンスは、一見「会計的なアプローチのみの判断」と勘違いされますが、会計を超えた経営的な視点があるところに真意があり、それが他社を圧倒し、高い利益を確保する強みでもあったのです。

今回の考え方も、BtoB(企業間取引)・訪問型営業のビジネス分野で、新規事業の展開、新分野の進出に際して、競争環境(例えばライバル会社)の有無にかかわらず、高い利益を獲得するには絶対に必要な考え方でもあります。

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