本日は、令和元年(2019年)8月5日(月)
【東京・四ツ谷の経営コンサルタント
元キーエンス(→アンリツ)社員、
中小企業診断士の立石です】

前回からの続きです。
4月入社初日、新卒入社全員を対象にした、キーエンス創業者の講話。
京セラのどこに興味を持たれていたか?
講話の中で出たのが【アメーバ経営】。
いわゆる小集団単位での活動・・・
キーエンスでは、営業部門の人員が相当数増えても、
少人数単位のグループ制の組織を維持する・・・京セラの経営を参考にされていたのは間違いなさそうです。

唯一の違い:経営判断についての原理原則

キーエンスと京セラは、ともに原理原則を徹底する点で共通しています。
但し、唯一の違いがあります。

すべての経営判断について、
京セラ創業者の稲盛氏は、著書【実学】(日経ビジネス人文庫:P193)でも
人間として何が正しいか』の原理原則で行うべきと主張されています。
一方、
キーエンスでは、私が入社した1年目の創業者の講話で、
(今後は)すべて経済原則で判断する』と公言されました。
その頃から、京セラとは違う独自の方向に進んだものと理解しました。

さて、『人間として』と『経済原則にて』。
つまり【こころ】をとるか?、【利】をとるか?
経営者の皆さまは、どちらを支持いたしますか?

キーエンスに勤務していた当時の私。
個人的所感なのですが、稲盛氏には『カリスマ』という雰囲気が漂っていました。
噂であったので、真偽はわかりかねますが、会社に顔写真があるとか・・・

一方、マスコミへの露出を嫌うキーエンスの創業者。
カリスマ経営者と呼ばれることには、相当抵抗があったと思います。
そのこころは、『私がいなくなっても、回る会社』こそが
理想とされていたからです。
(私にとって、京セラの手法が食わず嫌いになったスタートです)。

ところが、時は流れ・・・
突き詰めていけば、稲盛氏の考えが優れていると、思い始めるようになりました。
稲盛氏の書籍『実学』(日経ビジネス人文庫:まえがきP3~)で指摘されていたように、
90年代後半の大手金融機関の経営破たん・・・。
そして、実学発刊以降も続いた、売上水増しによる大手IT企業の経営破たん、
食品偽装、最近のデータ改ざんや金融商品の不正契約等々も、
『人間として・・・』が、経営者以下全員に浸透していれば、防げていたのだと思います。

しかも、不正とは無縁かと思われる大手企業の経営者(偏差値の高い大学出身者)が、
悪事に手を染める事案が多々あったため、
『人間として・・・』は、学歴や学力とは違う(比例しない)、
(改めて教育する必要のある)重要な項目であったと証明しています。

但し、『人間として』という心への教育は
意外と難しく、実現には相当な時間がかかる現実があります。

どんな経営方針であれ。その考えを全社員に浸透させるには、
教育が必要です。

稲盛氏の『人間として何が正しいか』については、
現在は、ありがたくも『京セラフィロソフィ』(サンマーク出版)が
世に出ていて、この1冊を熟読すれば、その領域に達することができると思います。

では、社員全員に課題図書として配布することで、
全社員が稲盛氏の考えにリンクすることは、できるでしょうか?

全社員の理解度(全社員が熟知して行動に移す)ということであれば
答えは、当然ノーです。

(いつも綴っていますが)、理由はバラツキの存在です

私も経験があります。
アンリツに勤務していた当時、キーエンスの創業者に負けない位、
あらゆるビジネス書籍を読まれている、熱心な先輩がいました。
私に、ある本を紹介してくださりました。
即購入、読みやすい文書でありながら、経営の本質を突いていたために
感動して、周囲の方にも紹介しました。

もちろん、後輩にあたる方々にも紹介。
時々、この本をベースにした、チーム一丸の戦術で
業績が上がったことがあります。

但し、それは『きちんと読んだ人』だけの世界。
全員がそうはならないのです。
例えば、
流し読んだだけの者(その後の議論・作戦に参加できない)。
さらに、冒頭10数ページ読んだだけで投げ出す者までいる・・・
(チームプレーにあって、落伍者が出現してしまうわけです。
これでは、チーム一丸は無理です)。

こういう、ありがちな場面で必要なことは、
もちろん、経営トップによる繰返しの教育です。

短期的な成長を実現する、
不正が起きない組織
(好き嫌いを含めて)公私混同を排す
・・・これらに限定すれば、キーエンス創業者の『経済原則で判断する』で
代替できたわけです。

また、『経済原則で判断する』という方針は、
全社員が受け入れやすいのであります
(公正なので全員が納得できる、反対するにも代替案が見つからない)。

しかも、社員全員が読書の必要も無く、キーエンス創業者の講話で完遂します。
とにかく、時間と労力を要しないのであります。

これは、かつて綴った【行動指針】と同じです。
短期間で、全社員に浸透します。
結果、以降は経営トップや管理職が関与しなくても、
各組織が、ひとりでに回るようになったのであります。

今回、異なる点を綴りましたが。
仕組みについては、キーエンスと京セラには共通が多々あります。
実は、キーエンスにとって、京セラはお手本のひとつだった思います。
私が、稲盛氏の書籍で初めて手にした『実学』。
当時、書店でバラバラと立ち読み、購入した理由があります。
一対一の対応を貫く』が、キーエンス勤務時代とリンクして
感銘をうけたからです。
貫く】という言葉。その徹底さに、正直しびれました。
続きは次回に。